今回は、キックが下手なんだけど、スタンドオフのポジションがやりたいという方に向けたお話をします。
スタンドオフと言えば、キックは必須のスキルですよね。私も、現役時代はスタンドオフをやっていまして、当然キックも得意でした。
ところが、なんと、キックが下手なのに、トップレベルのチームで活躍した選手がいるんですね。
それが、今回の主役である藪木宏之選手です。因みに私と同い年です。
藪木宏之選手と言えば、神戸製鋼で平尾選手と共にV7に貢献した選手の一人です。藪木宏之選手は、山口の大津高校から明治大学へ進学しまして、ポジションはスクラムハーフ一筋でした。
明治大学ではレギュラーになれず、ほぼ4年間控え選手として学生時代を終えました。そんな藪木宏之選手が、なぜ神戸製鋼では違うポジションであるスタンドオフで、しかもキックが下手にも関わらず活躍できたのか?
では、そんな藪木宏之選手のスタンドオフで活躍した、パスプレーとランプレーについて見ていきましょう。
学ぶべきは、走りながらの正確なパス!
藪木宏之選手の「パス」で学ぶべきプレーは、走りながらの正確なパスです。
藪木宏之選手は、もともとスクラムハーフをやっていたので、パスはとても上手です。但し、スクラムハーフとスタンドオフでは、パスをする時の姿勢が違います。
スクラムハーフは、地面にあるボールを低い姿勢からパスしますが、スタンドオフは、走りながらボールを受けて走りながらパスをします。
藪木宏之選手のプレーを見てみると、この走りながらのパスが受け取る選手の胸の前へ正確に投げられています。この精度の高いパスが出来ることが藪木宏之選手の強みです。
そして、なぜ、走りながらのパスが良いかと言うと、スタンドオフが走ることによってセンター、ウイングも走りながらボールを受けるので、バックスライン全体のスピードがアップする訳です。
逆に、スタンドオフが止まってボールを受けてしまうと、センター、ウイングも止まってしまい、バックスラインのスピードが上がらず、その結果、ディフェンスラインを突破することが出来なくなります。
他にもパスプレーで有名な選手というと、往年の名スタンドオフである松尾雄治選手が思い浮かびます。因みに松尾さんは私の高校の先輩です。
松尾選手は、パスのバリエーションが多く、特に味方選手を飛ばして且つ、正確なロングパスを有効に使ってディフェンスラインを突破していました。
私は、現役時代に松尾選手のVTRを何度も見て、頭の中にイメージを焼き付け、それを試合で実践するということを繰り返し実行しました。
ある試合では、走りながらパスを受け、センターの選手を一人飛ばしてロングパスを成功させて、ディフェンスラインを突破しトライを獲ったという経験があります。
このプレーがハマった時の快感は今でも忘れません。それだけ、難易度の高いプレーということができます。
皆さんも、是非トライしてみて下さい。成功したら気持ちいいですよ!
ランプレーを成功させるにはコンビネーションが大事!
次に、藪木宏之選手の「ラン」で学ぶべきプレーは、逆サイドへの移動です。
どういうことかと言いますと、バックスでの一次攻撃でポイントを作り、ラックからの二次攻撃でボールが出る瞬間に、スタンドオフがオープンサイドからブラインドサイドへ移動してパスを受けます。
そうすると、相手のスタンドオフのディフェンスが遅れるので、味方のバックスラインの人数が余り、ノーマークのプレーヤーを生み出すことができます。
藪木宏之選手は、日本一を掛けた明治大学との日本選手権決勝の試合で、見事にこのプレーを成功させています。
しかし、このプレーを成功させるには、スタンドオフだけの動きでは出来ません。まず第一に、スクラムハーフとのコンビネーションが大事です。
スクラムハーフとの息が合わないと、パスをもらうタイミングも合わず、ディフェンスのカモになってしまいます。
ですから、スタンドオフの選手は、自分と合うスクラムハーフを選ぶことが多いです。私も現役時代は、自分に合うスクラムハーフと組みたくて監督にお願いしたこともあります。
第二に、センタープレーヤーとのコンビネーションです。スタンドオフの動きに合わせて、センタープレーヤーが瞬時に反応する必要があります。
センタープレーヤーとして、藪木宏之選手と名コンビだったのが、故平尾誠二選手でした。元々、平尾選手はスタンドオフでしたが、藪木宏之選手をスタンドオフで起用し、自分はセンターにコンバートした経緯があります。
平尾選手は、自分がスタンドオフだったこともあって、藪木宏之選手の動きが予想できたので、名コンビになれたのだと思います。
私は、レベルの高いバックスというのは、精度の高いコンビネーションを備えているバックスだと思っています。
たとえ個々のプレーヤーのレベルが高くても、コンビネーションがバラバラではパスは繋がりません。
私は現役時代に、コンビネーションを高めるために、バックスのパス回し練習を何度も何度もやりました。そうすることで、まわりの選手の動きが自然とわかるようになり、阿吽の呼吸でプレーできるようになりました。
キックを使わないチームはレベルが高い!
今回は、藪木宏之選手を例に、キックが下手でもスタンドオフになれるというお話をしてきました。
正直、キックが下手なスタンドオフプレーヤーを、藪木宏之選手の他に知りません。それだけ貴重な存在だと思います。
ラグビーというスポーツは、陣取りゲームなので、キックを有効に使えば楽に敵陣まで入ることができます。
しかし、キックを蹴るということは、ボールを手放すことなので、敵にボールが渡るリスクもあります。
やはり理想は、キックを使わずパスを回して、常にボールを保持し続けることで、リスクも負わずに攻め続けることだと思います。
そういう意味で、キックが下手なスタンドオフでも、Ⅴ7を達成した神戸製鋼は、ほんとに理想的なチームだったんだと改めて思います。
以上、皆さんの参考になれば幸いです。
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